作品紹介(1) 『ヴェサリウスの柩』『真夜中のタランテラ』
麻見和史です。3月に『死者の盟約 特捜7』が出たあとしばらく新作が出ていません。秋以降、新刊を出せるよう頑張っておりますが、それまでの間、過去の作品についてご紹介したいと思います。
以下の文章はツイッターに投稿したものです。一部手直しして、ここに残しておきます。
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【作品紹介1】『ヴェサリウスの柩』
本作で新人賞をいただき、デビューすることができました。刊行は2006年の秋なので、10年前の作品です。解剖中のご遺体から大学教授を脅迫するようなメモが出てくる。そして次々事件が……という物語。一番書きたかったのは後半の「プール」の場面でした。
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デビュー作なので「あそこはこうすればよかった」と思う点がいろいろあります。もし直すとしたら全体の仕掛けをもっと頑張りたいところです。作中の「少女」については、現在の私の作風であれば絶対登場しないものなので、今読み返すと新鮮です。人によって好みが分かれるかもしれませんが……。
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『ヴェサリウスの柩』、手に入りにくいかもしれませんが、機会がありましたらご一読ください。最近軽いタッチのものを刊行している麻見も、昔はこういう重い小説を書いていました。そういえば塚本晋也監督の『ヴィタール』という映画がWOWOWで放映されましたね。これも医学部での解剖の物語でした。
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早いものでデビューさせていただいてから、もう10年がたちました。当時は業界のことが何もわからず、ただおろおろするばかりの毎日でした。
『ヴェサリウスの柩』はとにかくインパクトの強い話にしたいと思い、若干過激と思われる描写を入れました。その最たるものが「プール」であり、「あそこは気持ち悪かった」という感想を多数いただきました。
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【作品紹介2】『真夜中のタランテラ』
長編2作目です。刊行は2008年の秋で、デビュー作が出てから丸2年がたっていました。『ヴェサリウスの柩』の「解剖」に負けないような強い題材がほしくて「義肢装具士」を主人公にしたのですが、残念ながらうまく作り上げることができませんでした。
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『真夜中のタランテラ』を書いたころは、かなり迷走していたという気がします。今の自分だったら、こういう題材は絶対に使いませんので……。じつは三社ぐらいからオファーをいただいたのですが、この作品は文庫化していません。おそらく、このまま絶版という形になるだろうと思います。
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『ヴェサリウスの柩』や『真夜中のタランテラ』の暗いトーンが好きだと言ってくださる方もいるのですが、その後私は警察小説にシフトしてしまい、軽いタッチのものを書くようになりました。ですので、今『タランテラ』を文庫にしてもプラスにはならないだろう、と判断したような次第です。
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デビュー作『ヴェサリウスの柩』のあと、すぐ2作目に着手したのですが当時はミステリー的な仕掛けをうまく作ることができず、相当苦労しました。
2年たって見本が出来たときは本当に嬉しくて、「よし、この路線で頑張るぞ!」と思ったものでした。
しかし世の中、そううまくはいきませんよね。
デビュー作は「◆◆賞受賞!」などと帯に書かれるため、いわばご祝儀的に買っていただけることがありますが、2作目となるとその手は使えません。また、受賞から2年もたつと、読者さんが手に取っても、「誰だっけ?」という状態になってしまいます。
出来がよければ版元でプッシュしてくれることもあるでしょうが、今思えば『真夜中のタランテラ』には売れそうな要素がありませんでした。当時全力を尽くして書いたのですが、努力したことが必ず結果につながるわけではありませんし……。
というわけで『真夜中のタランテラ』は特に話題になることもなく、一カ月で書店さんの棚から消えていきました。
そしてこのあと、暗黒時代に突入します。
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【作品紹介2.1】バラバラ殺人もの
2008年に2作目が出たあと、どん底の時期が訪れました。書いても書いてもOKが出ず、2年半が過ぎてしまいました。その間バラバラ殺人ものを完成させていて、仕掛けもかなり凝っていたのですが、残念ながら未刊です。機会があれば改稿したいと思っています。
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この時期は本当につらくてつらくて……。
デビュー後、本が出なくなってしまう作家さんがいることは、みなさんご存じだと思います。アマチュア時代の私は暢気なもので、「それは本人の努力が足りないんだろう」などと思っていました。
しかし自分自身「本が出せない作家」になってしまったとき、努力だけでは成功できないことがよくわかりました。いくら頑張っても、どうにもならないことが世の中にはあります。
個人的な経験でお話しすると(以下すべて私のケースです)、作家として生活できるようになるまでに必要なものは、こんな感じではないかと。デビュー前の実力が60%、デビュー後の力の上積み分が15%、人間関係の構築力が5%、そして何か目に見えないもの(運)が20%……。
もちろんデビューするには60点では駄目でして、コンクールで最大瞬間風速が出せないと受賞できないわけですが、これはある程度、テーマや題材でカバーできるのではないかと思います。今まで世の中になかったタイプの小説を全力で書けば、目新しいものとして評価されやすいですから。
しかし問題は、受賞後どうやって生き延びるかです。デビュー前の60点の力のままだと、続けていくのはかなり難しいと思います。
そこで、デビュー後の修業が大事になってきます。もともとある60点の力に、その後15点加算できるようになれば、75点の作品が書けるようになります。コンスタントにそれだけ出せれば、読者さんに忘れられることはないと思います。
あとは人間関係と運ですが、これらについてはちょっと説明が難しくなります。作家として食べていくための方法を話そうとした場合、ハウツー本にするのは無理でして、どうしても自叙伝みたいになってしまうんですよね。こうすればうまくいく、という必勝パターンが存在しないので……。
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次回は麻見復活編です。『石の繭』のことを書きます。
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