映画『崖っぷちの男』
麻見和史です。ぜひ見たいと思っていた映画『崖っぷちの男』の試写会に行ってきました。
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主人公ニックはニューヨークの高層ホテルに部屋を取るが、ルームサービスで食事をしたあと、21階の窓から外に出る。外壁をぐるりと取り囲む30センチほどの縁に立ち、投身自殺をほのめかす。付近は大騒ぎになり、消防、警察が出動するが、そのうち事態は思わぬ方向へ動きだして──。
この設定が文句なしに面白い。とにかく「先が見たい!」と思わせる幕開けだ。
ビルの下は通行止めとなり、周囲には野次馬がどんどん集まってくる。最初は危ないとかやめてとか叫んでいた人々が、徐々に違った反応を示していくのが興味深い。いつまで待たせるんだとか、早くしろとか、飛び降りることを期待し始めるのである。
警察の女性交渉人が呼ばれ、ニックを説得しようとするが、どうも彼の様子がおかしい。やがてニックの立てた計画が少しずつわかってくる。
これが短編ミステリーなら、裏で動いていた事実を最後に説明する手もあるだろう。だがこの映画では、早い段階でそれが観客に明かされる。そこから、もうひとつのサスペンスが始まり、崖っぷちの男・ニックのサスペンスと同時進行していくのだ。
どちらか単独でも充分映画になる内容だから、これをふたつ組み合わせた作りはまことに贅沢。
計画がうまくいきすぎるとか、ラストをもう少しスマートにしてほしいとか若干気になるところもあったが、とにかく設定が面白く、観客をあきさせることがない。
エンターテインメント作品にとって、これはとても大事なことだ。私もサスペンス寄りの話を書く人間なので、大変勉強になった。
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以下余談。
その昔、三谷幸喜さんが東京サンシャインボーイズという劇団で脚本を書いていた。新宿のシアタートップスで『なにもそこまで』という芝居を上演したのだが、ご存じの方いらっしゃいますか。
シチュエーションコメディーなのだが、『崖っぷちの男』と同じように、ビルの外壁に設置された縁の部分に人が出てくる。細部は覚えていないが、たぶん一度外に出ると窓が開けられない仕組みで、閉め出された住人がひとりふたりと増えていき、最終的には十数人になってしまうのだ。オチはあっけないものだったが、この芝居もとにかく設定が面白かった。
今調べたら『なにもそこまで』は1992年に上演された作品らしい。ええっ、もう20年も前の話?
この分だと「老境サンシャインボーイズ」の公演まで、あっという間かもしれない(「老境~」は2024年に『リア玉』を上演することになっている……はずである)。




