臨床医学オントロジー研究開発
麻見和史です。久々にシンポジウムに参加してきました。
厚労省受託研究開発事業「医療情報システムのための医療情報知識基盤研究開発事業」研究グループ主催、日本医療情報学会課題研究会「医療オントロジー・用語・言語・知識処理研究会」共催による公開シンポジウム『臨床医学オントロジー研究開発』に出かけた。
「オントロジー」という言葉の意味がわからないため、何か黒魔術みたいなものを想像してしまい、無駄にわくわくする私である。
場所はJR東京駅そばのサピアタワー。初めて入るビルだ。
下のほうの階を撮影。オフィス階に行く人は、改札機みたいなものを通過するルールらしい。
会場は6階、東京ステーションコンファレンスと呼ばれている場所。
エレベーターを降りてすぐのところに長机があり、受付だと思って近づいたのだが、なぜか話が噛み合わない。そのうち向こうも察したようで、「ここは株主総会の部屋です」と教えてくれた。ええっ、今日株券なんて持ってきてないよ、と動揺する(違います)。
じつは、オントロジーの会場はその奥の部屋なのだった。構造がわかりにくいので、看板を出してほしいと思いました。
さて、臨床医学オントロジーとは何なのか。
「オントロジー」は哲学の用語で「存在論」のことだそうである。おお、なんとなく黒魔術に近づいたような気がする(違います)。
ここでいうオントロジーは「概念化」といった意味らしい。簡単に言えば、臨床医学の分野において医療従事者がばらばらに持っている知見を共通のものとし、みなで活用しようという試みだ。そのためにデータベースを構築し、アプリケーションを作っているとのこと。
DBはふたつ存在して、ひとつは病気の定義づけをする「疾患オントロジー」、もうひとつは臓器の定義づけをする「解剖構造オントロジー」である。ええと、このへん門外漢の解釈なので、もし誤解があったらすみません。
以下、講演タイトルを記す。例によって敬称略で失礼します。
◆「ご挨拶・本研究事業の概要」
大江和彦(東京大学大学院医学系研究科・医療情報経済学分野)
◆「臨床医学オントロジーの基本構造と考え方」
溝口理一郎(大阪大学産業科学研究所・知識システム研究分野)
◆「is-a関係・part-of関係・動的is-a関係の取扱い─オントロジー構築ツール『法造』での対応─」
古崎晃司(大阪大学産業科学研究所・知識システム研究分野)
◆「臨床医学オントロジーにおける疾患オントロジーの詳細」
古崎晃司(大阪大学産業科学研究所・知識システム研究分野)
◆「臨床医学オントロジーにおける解剖構造オントロジーの詳細」
今井健(東京大学医学系研究科疾患生命工学センター・医工情報研究領域)
◆「デモで見る臨床医学オントロジーの概要」
太田衛((株)エネゲート)
◆「臨床医学オントロジーの応用と今後の展開」
大江和彦(東京大学大学院医学系研究科・医療情報経済学分野)
厚労省から受託した内容を実現すべく、先生方は関西電力グループのエネゲートという会社にシステム開発を依頼したようだ。エネゲート社は、概念化ツールとして「法造(ほうぞう)」というシステムを作った。東大病院の先生などに頼んで、疾患のデータ登録などをしてもらったそうである。
今日の講演はすべてこの「法造」をベースとした説明であった。
大変失礼なことを申し上げると、前半を聞いた限りでは「労多くして、はたして得るものはいかほどか」という感想を抱いてしまった。すみません。
しかし、後半エネゲート社の人のデモを見て、考えが変わった。これはアプリができれば、すぐにも使えるデータである。
どう使うのか。
たとえば解剖DBを利用して血液の流れをシミュレーションすると、心臓からスタートしてAという部位を通り、Bを通り……というふうに組織(部位)名称の連結を画面で見ることができる。これはテキスト(文字)が相互にリンクするだけで、具体的な心臓や血管の形はどこにも出てこない。なんだ駄目じゃん、と思ってしまいそうだが、そこでよく考えてみよう。これは機能の表示に特化した図なのである。手術の役には立たないだろうが、医療関係者には単語・用語をひたすら覚えなくてはならない場面があるはずだ。試験である。この図にはテキストしか出てこないから、暗記の教材として最適なのだ。
あとは、『家庭の医学』的な使い方だろうか。「このへんがしくしくして、熱があり、血痰が出る」といった症状を条件にして、疾患を検索するのである。まあ、蓄積されている知識が多分に専門的なので、このデータが一般に公開される可能性は低いと考えるが、もし使えるとなれば喜ぶ人はけっこういるだろう。
最後に……これは難癖つけるとか批判するとかいうのではないのだが、一般庶民の感想として聞いてください。
私の直感では「臨床医学オントロジー」という名称は、一般受けしないように思う。「臨床医学データベース」のほうがわかりやすくて良いのではないか。そりゃあんた意味が違うよ、と言われたらそれまでですが。
もうひとつ、「法造」という名もちょっと引っかかる。「法」という言葉は真理、道理、理法などの意味を持ち、それを造るから「法造」だと、ご説明いただいた。しかし「法造」と聞いたら、十人のうち九人は法律関係のシステムを連想するんじゃないでしょうか。「いや、この名前には、これこれこういう意味があるんです」とその都度説明しなければならないのだとしたら、それはやはり、名前が一般的ではないせいだと思うのです。
ごちゃごちゃ言ってすみませんが、まあ素人がそんなことを感じました、ということで……。