アンビエント・エレクトロニクスがもたらす情報社会の変革
麻見和史です。年末年始、じつはずっと水面下で小説原稿をやっておりました。その間、行きたかったシンポジウムをふたつキャンセルしてしまい、内容が気になっています。もしかしたら、ものすごく面白いものだったんじゃないかと……。
さて、今日は仕事を調整し、久しぶりにイベントに参加することができた。
東京大学産学連携協議会運営本部主催 第18回科学技術交流フォーラム『アンビエント・エレクトロニクスがもたらす情報社会の変革─ヒューマン・セントリックな情報社会を目指して─』(長い……)である。場所は第16回『複雑系科学技術』のときと同じで、東京大学本郷キャンパス、山上会館2階の大会議室だ。三四郎池のすぐ隣です。
受付で「お名刺を1枚」と言われ、ちょっと慌てた。申し込み要項に、名刺を持って来いとは書かれていなかった気がするが。
しかし会の趣旨を考えれば、名刺をくれと言われるのは当然のことである。産学連携を目的としたフォーラムなので、ほとんどの来場者はビジネス目的の企業人だったはずなのだ。私のように個人参加でやってくる人間はほとんどいないだろう。
でもこれ、一般参加OKのイベントだから、産学連携に直接貢献しなくても、怒られることはないですよね。こうしてブログで紹介し、及ばずながら、研究成果の普及に一役買おうという気持ちもある。決して、小説のネタを探しに来ただけではないということで……。
休憩時間に撮影した会場の様子。
前回は前のほうで聴講したが、今日は参加者が多かったので、遠慮がちに一番うしろの席に座った。
プログラムは以下のとおり。敬称略で失礼します。
◆開会挨拶
影山 和郎 (東京大学 産学連携本部 教授・本部長)
◆挨拶
松本洋一郎(東京大学 理事(副学長)
◆基調講演「アンビエント・デバイスと新しいエレクトロニクスの将来像」
桜井貴康(東京大学 生産技術研究所 教授)
◆講演1「伸縮自在なレイアウトを生むアンビエント・デバイス」
染谷隆夫(東京大学 大学院工学系研究科 教授)
◆講演2 「印刷技術で作るアンビエント・デバイス」
前田博己(大日本印刷株式会社 研究開発センター アンビエントエレクトロニクス研究所長)
◆講演3 「MEMSからみたアンビエント・デバイスの展望」
藤田博之(東京大学 生産技術研究所 教授・副所長)
◆講演4 「アンビエント・デバイスからICT社会基盤の構築へ」
森川博之(東京大学 先端科学技術研究センター 教授)
◆講演5 「アンビエント・デバイスが切り拓く情報社会の変革 -携帯ネットワークの視点から-」
村瀬淳(株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ 先進技術研究所 所長)
◆講演6 「アンビエント・デバイスによる実世界情報技術」
篠田裕之(東京大学 大学院情報理工学系研究科 准教授)
◆講演7 「アンビエント情報処理-ウェアラブルコンピューティングからパブリックデジタルへの展開-」
廣瀬通孝(東京大学 大学院情報理工学系研究科 教授)
◆講演8 「アンビエント情報処理への期待-アンビエント・エレクトロニクス時代の情報処理技術-」
國尾武光(日本電気株式会社 執行役員 兼 中央研究所長)
◆閉会挨拶
寺澤廣一(東京大学 産学連携本部 特任教授・産学連携研究推進部長)
・司会:海老野征雄(東京大学 産学連携本部 Proprius21 プログラムオフィサー)
さて、今日のテーマである、アンビエント・エレクトロニクスとは何か。
以前「ユビキタス」という言葉が流行ったことがある。ラテン語で「偏在する」という意味で、「ユビキタスコンピューティング」といえば、自分の周囲にコンピューター機器が多数存在し、意識せずに電子機器が操作できる状態のことを指していたようだ。
その後「ウェアラブル・コンピューター」という言葉が登場した。これは、身に着けることのできるコンピューターを指し、演算装置が小型化されたことの象徴でもあった。なんとなく、SFっぽい印象がある。
さらに「センサーネットワーク」という言葉も提唱されたが、それらの語はいずれも、あまり定着しなかった。
しかしこの分野の研究開発はずっと続けられており、特にデバイス(装置=ハードウエア)分野ではかなりいい成果が出てきているという。たとえば無線で電気を供給する非接触型の無線給電シート、有機トランジスタ、電子人工皮膚、極小デバイスであるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)など。こうした入出力装置を大量に配置し、利用するシステムを「アンビエント・エレクトロニクス」と呼ぶらしい。
「アンビエント」は「周りの」とか「そのへん一面にある」といった意味で、「アンビエント・ミュージック」といえば「環境音楽」のことである。同様に、人の周辺にちりばめられた電子装置が「アンビエント・デバイス」であり、それらデバイスをコントロールするのが「アンビエント・エレクトロニクス」、というわけだ。
つまり、過去に提唱されていた「ユビキタスコンピューティング」と中身は同じなのである。どうやら、新しい名前(恰好よく、一般受けしそうな名前)をつけることで、この概念を世間に定着させたいという関係者の期待があるらしい──と、個人的にはそう理解した。
それを裏付けたのが講演4、森川博之先生のお話である。「アンビエント・エレクトロニクスは面白そうなのだが、過去、ビジネスにつながらなかった。ひとつの理由は、データが蓄積されていなかったことで、そのために、良いアプリケーションが作れなかった。将来この分野は成長する可能性がある。今はそのときに備えてデータを集め、利用方法を模索する時期である」(大意)とおっしゃっていた。
スライドにもあったが「『どのように実現するのか』ではなく『何をするのか』」という段階なのだそうだ。
これを聞いて、産総研の研究施設を見学したときのことを思い出した。あそこでは、子供の行動を観察するための埋め込みセンサーや、風呂場での溺水検知センサーなどを開発していた。それらの研究が社会実装できるかどうか疑問に思った記憶があるが(おもに費用面の問題)、しかしそれはそれで社会に貢献するという目的を持ったプロジェクトである。
一方、アンビエント・エレクトロニクスを研究する先生方は、まだ具体的な目的・目標を掲げることができずにいるようだ。講演者の口から「今日は決起大会」という言葉が何度か出たが、「新しい名前もつけたことだし、よーし、これから頑張るぞ」という意味だったのかもしれない。
帰りに撮影した、1階レストランの様子。懇親会の準備が進んでいた。
部外者なので懇親会には出席せず、引き揚げた。
こういうの、一度も参加したことがないのだが、どんな雰囲気なのだろう。ときには、白熱した議論などが展開されるのだろうか。
「○○くんね、君のあの理論は間違っとるよ。どうしてあんな勘違いを……」
「先生こそ勘違いしていらっしゃる。なんなら今ここで、ご説明しましょうか」
「やってもらおうじゃないか。おい、ホワイトボードを用意してくれ」
とか。それはないか。
あるいは……。
「うわ。あの人来てたのか。話したくないなあ。やだなあ。あちゃー、こっちに歩いてくるよ。しようがないなあ。──やあ、○○先生、ご無沙汰してます! よかった。さっきから探してたんですよ」
なんてことは、実際にありそうだ。
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