麻見和史です。今日はJST(科学技術振興機構)主催の国際シンポジウム『傷害予防のための日常生活コンピューティング』に参加してきました。
場所は毎度おなじみ、お台場・日本科学未来館のみらいCANホール。今日は風もなく比較的暖かかったので、徒歩15分も苦にならなかった。事前申し込みした際のPDFを印刷していたので、受付でこれを渡す。今日の資料と、同時通訳の受信機を貸してくれた。
ざっと見渡してみたのだが、半分以上空席で、参加者は150人ぐらいしかいなかった感じである。祝日だし、場所も便利とはいいがたいので、まあ仕方ないかもしれない。
ウェブサイトによると今日の趣旨は、1~19歳の子供の傷害予防について、現状報告と成果の中間発表を行なうということらしい。
講演タイトルと個人メモを記します。
「東南アジア地域の子どもの事故予防:タイにおけるバイク・ヘルメットの研究」
WHOの人による発表。タイではバイクの3人乗り、4人乗りは当たり前で、事故発生時、子供が頭部外傷で死亡することが多い。警官は本来ノーヘルの子供を見たら取り締まるべきなのだが、低所得層の人たちは罰金を払うことができないため、見逃しているというのが実情だという。
メモ。ノーヘルの問題もあるが、その前に、タイではバイクの何人乗りまで許されているのか非常に気になった。発表されたサンプル写真には7人乗りのバイクが写されていてびっくりした。
「成功事例に学ぶ子どもの傷害予防」→さしかえ
ジョンズホプキンス大学の先生による発表。全世界における子供の死亡統計データについて。
メモ。やけどで亡くなる子どもは、男児より女児のほうが多いという内容について、なぜかと質問が出た。タイの事例を発表した先生が代わって答えたところによると、インドなどでは少女の持参金が少ないと嫁入り先で焼き殺される事件が多発しており、それが原因ではないかという。この話を聞いて会場の参加者たちは、ちょっとどうしていいかわからないという顔をしていた。
「子どもの傷害予防のための傷害情報収集システム」
オーストラリアにおける死亡情報データベースについての発表。法医学研究所が作っているらしい。
「子どもの傷害予防の行動心理学的アプローチ:校庭・水泳・歩行者の安全」
子供が危険な遊びをしていないか監視するのは退屈であるがStamp-in-Safty Programというものを実施したところ、安価でよい効果が得られた。安全な遊びをしたときスタンプを押す。子供は喜ぶし、監視者の意識も変わるとのこと。
メモ。同時通訳のトラブル(おそらくは通訳者のマイクが入っていなかった)で最初の5分間は英語だった。どうやら係員の人たちは講演の内容を聞いていなかったらしい。
休憩でコーヒーをごちそうになったあとは、日本語による講演。
「傷害予防のための安全知識循環」山中龍宏(産業技術研究所 デジタルヒューマン研究センター 子どもの傷害予防工学カウンシル代表)
階段がらせん状になっている大型の滑り台から落下し、幼児が負傷する事故が起こった。普通なら頭部外傷となるはずだがなぜ内臓損傷だったのか。ダミー人形を使って調べたところ、階段に手すりがなかったため、頭は無事だが背中を激しく打ち付けていることがわかった。手すりを付ける、柵を付けるなど低コストで改修できた。
「確率的モデリングによる日常生活のリスクコントロール」本村陽一(産業技術研究所 デジタルヒューマン研究センター 子どもの傷害予防工学カウンシル 研究員)
子供の行動データを収集するため天井に魚眼レンズ、壁に多数のセンサーを組み込んだプレイルームを作った。そこで子供たちを遊ばせ、行動を数値化する研究を行なっている。8割ぐらいの確率で行動予測ができるようになってきている。
「傷害予防のための日常生活コンピューティング」西田佳史(産業技術研究所 デジタルヒューマン研究センター 子どもの傷害予防工学カウンシル 研究員)
滑り台のはしご部から1歳11カ月の子が転落し頭部外傷を負った件について、コンピュータグラフィックを使って検証した。はしごの土台がコンクリートだったため大怪我となったが、ここをゴムに変えることで軽傷で済むようになった。
メモ。ダミー人形を使った山中さんの実験はローテクだが、我々のやっているのはハイテクであるという。しかしそのハイテクで検証するためには複雑なパラメーターを設定しなければならないはずで、すでに出来ていればいいが、そうでないなら絶対に山中さんの実験のほうが早い。また、コンピュータを使ったシステムで人の体を研究することには限界があると思う。心意気は買うが、なんでもかんでもシステムで表現するというのは無理なのではないか。
講演終了後、未来館に隣接する産総研の研究施設(臨海副都心センター)を見学した。未来館の7階から一旦2階へ降り、渡り廊下で産総研の建物に入ってもう一度3階に上るのだが、いちいちエレベーターを使うものだから移動に20分ぐらいかかってしまった。体の悪い方のみエレベーターにして、ほかの人たちは階段で移動させればよかったのでは。あるいは、一旦終わりにして、30分後に産総研の1階に集合させるとか。今後の改善に期待します。
研究室は土足厳禁だそうで、みんな靴の上に青いカバーを填めて入った。
気分は鑑識課員である。
先ほどみらいCANホールで紹介された各種システムの説明を受ける。以下感想です。
事故現場を再現するCGムービーは、見ている分には面白いが、余分な描写が多いような気がした。事故の起こった滑り台を中心にして校庭の俯瞰図をぐりぐり動かしたりしている。グラフィックのすごさはわかるが、しかしこれで何をするかというと、保護者に見せて注意を喚起するだけらしい。
事故情報データベースはヒヤリハット的には価値あるものだと思うが、具体的にどう役に立つのか、今ひとつ、ぴんとこなかった。
センサーを付けたプレイルームはまだ実験の途中だというが、たとえば腰掛けの天板部分の一辺が30センチだと子供はその上に登るが、20センチだと登らないという結果が得られたという。むう。これだけの設備を作ったのだから、もっと何かすばらしい発見をしてほしいと思います。まあ、一口には説明できなかったのかもしれませんが。
浴槽での溺水防止センサーには期待したのだが、説明を聞いてちょっと困ってしまった。ソフトボールぐらいのプラスチック球を浴槽に浮かせておいて、子供が浴槽に落ち、暴れ出したときの波形を検知させる。そうして、親を呼ぶためのブザーを鳴らす仕組みだという。
写真を掲載します。向こうにある黄色いのがセンサーボール。手前の機械は実験用に波を起こす装置で、このシステムには含まれません。
年間30人ほどの幼児が浴槽で溺死しているそうで、GDPなどからその逸失利益を計算したところ、センサーボール1個が1万円を切れば、幼児のいる全世帯に無償配布してもプラスになるという計算らしい。むう。言っていることはわかりますが、そんな機械を作らなくても、風呂場に錠を設けて幼児が入れないようにしたほうが、よほど早く、安価に済むのではないだろうか(溺水は入浴時ではなく、親が目を離した隙に子供が浴室に入って発生している)。
ただで見せていただいてなんですが、どうも産総研の方たちの研究は、私などの感覚からは少し隔たりがあるように感じた。意地悪に言えば、予算がついているので何か研究しなければという焦りがあるのかな、と思えてしまう。研究者ひとりひとりに責任がないことはわかっているので、ここはひとつ、上に立つ方が進むべき道をしっかり見きわめてほしいと思います。あとは……見せ方の問題だろうか。一般の人に見せたとき、すぐに成果が頭に浮かぶような研究のほうが、好印象となるはずだ。
単純な比較はできないが、たとえば先日聞いたトレーラートラック横転防止の研究、あちらのほうがよほど急務であり、大事な研究だと感じられる。社会に与えるインパクトが大変強いからである。
景気の悪い時期なので、予算縮小されないよう、研究課題の選択時点から慎重になるべきだと思われる。
追記。講演の途中で、今日はNHKの取材班が来ているとの説明があった。振り返ると、たしかにテレビカメラが入っていた。なんてことだ。気持ちの問題があるので、そういうことは早めに教えておいてください。
帰宅後、録画した『ニュースウォッチ9』を見たら、会場の様子が映って、自分の姿も確認できた。しかしそれは一瞬のことであり、記者が取材していた内容などは特に報じられなかった。JST、産総研的には物足りない感じだったのではないだろうか。
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