知能的太陽光植物工場
麻見和史です。今日は仕事を調整し、日本学術会議公開シンポジウム『知能的太陽光植物工場』に参加してきました。
このシンポジウムの告知を見たとき、まずタイトルの奇抜さに惹かれた。知能的で太陽光で植物の工場である。いったいなんだろう。
主催の日本学術会議というのは昭和24年に作られた組織で、その目的には「科学の役割についての世論啓発」というのがあるらしい。
啓発されるため、早速会場に入ってみる。
1階にあるホールはとてもきれいだった。半すり鉢状の受講者席のほか、後方には控え目に参加したい人向けの席があって助かった。一番うしろの隅っこに座らせていただいた。
控え目に参加したい人の席から、演壇をのぞむ。400人ぐらい入れそうだが、実際の参加者は150名ぐらいだったろうか。
さて、そもそも知能的太陽光植物工場とはなんなのか。先生方のお話を聞いて「太陽光を利用し、コンピュータで環境管理を行なっている植物プラント」ぐらいの意味だと理解した。以前からビニールハウスを使って野菜、果物などの収穫時期をずらす工夫はあったが、それを改良し、生産効率を上げようと努力しているようである。
以下は講演内容に関する個人的なメモ。例によって敬称略で失礼します。
◆「なぜ、太陽光植物工場なのか?その課題と展望」 古在豊樹(千葉大学教授)
植物工場の概要説明。半閉鎖型は暑くなれば窓を開けるなどするので夏は熱の排出、冬は暖房のためのCO2排出、その他もろもろで環境を汚染する。一方閉鎖型は若干の排熱は残るだろうが、環境汚染物質は排出ゼロとするのを目標としている。植物工場の研究はまだこれから。従来、専門家がばらばらに研究していたが、今回ようやく総合的に取り組むこととなった。自分としては心と環境、植物を育てることの楽しさも重要だと考えている。植物工場のジャンルではオランダが世界でトップクラスの技術を持つ。しかし欧州とアジアでは気候が違う。世界の植物工場のうち80%がアジアにある。日本が優れた技術を開発すれば、アジアに広めることができるだろう。
コメント。植物工場についての定義がわかった。導入編として、大変わかりやすいお話だった。
◆「高生産性オランダトマト栽培の発展にみる環境・栽培技術」 池田英男(千葉大学教授)
オランダの植物工場、特にトマト工場はどうなっているか、その説明。12カ月休みなしに収穫が可能。トマトが10アール当たり100トンとれる。夏場、地下水に蓄熱して冬にそれを利用するという、オランダならではの技術が確立されている。
コメント。話に出てきたロックウール(RW)がわからなかったのであとで調べてみた。石綿とよく似た外観で、吹き付け材となるらしい。このロックウールに水を含ませ、種を蒔いてトマトの培地とするようだ。知らなかった。
◆「地域拠点型“知能的太陽光植物工場”の進展」 仁科弘重(愛媛大学教授)
同じ植物工場内であっても環境に差が出る。ある工場では場所により8度も気温の差があった。人工光植物工場ではどういう光を当てるかなど環境生成の方法を研究すればいいが、太陽光植物工場は自然の光が相手だから、まず環境の計測から始めなくてはならない。継続調査が必要で、時間がかかる。たとえば葉のしおれ方をデジカメで継続撮影するなど。
コメント。「水分ストレス」という言葉を知った。わざと水をやらずにおくと、糖度が高くなるらしい。知らなかった。
◆「植物工場の全自動化への展望」 村瀬治比古(大阪府立大学教授)
なぜ今植物工場か。地球温暖化の影響などで気象変動があるので、それに対応するため。農家のなり手が減っているので人手のかからないシステムを作るため。現在、全自動化の研究を進めている。
コメント。「トクノウカ」という言葉がこれ以後、パネルディスカッションの場でさかんに出るようになった。すごい農家の人、ぐらいの意味と理解して聞いていたが、あとで調べたら「篤農家」という字を書くそうで、良い野菜や果物を作る技術を持った農業従事者のことらしい。知らなかった。
◆パネルディスカッション「食料生産の革新システム:グリーンハウス・オートメーションへのパラダイム・シフト」
コーディネータ:野並 浩(日本学術会議農業情報システム学分科会幹事)
パネリスト:田中道男(園芸学からの視点)、吉田 敏(環境調節からの視点)、高山弘太郎(植物生体計測の視点)、羽藤堅治(情報科学からの視点)、有馬誠一(機械化からの視点)
・田中先生……レタスにステビアを与えると苦みが減る。「ルネッサンス」というトマトはマルハナバチによる受粉なしでOK。
・吉田先生……九州大学に生物環境調節センターというのがあり、そこで仕事をしている。生物学の先生などに安定した実験環境を提供するため。
・高山先生……SPA(Speaking Plant Approach:生体情報を活用する生育プロセス制御)のことなど。
・羽藤先生……よくわからないがこうするといい、といわれていた栽培のルールを解き明かしたい。地方のデジタル・デバイドをなくすよう情報インフラの整備を急ぐべき。
パネリストのみなさんが自己紹介を兼ねて自分の研究を説明したあと、会場からの質問を受けることになった。
古在先生のお話に、「植物工場はトマトなど機能性植物の栽培をすべき。エネルギー穀物はやらなくてよい」という内容の発言があったのだが、これに異を唱えた人がいて、「世界的な食糧難も予想されるし、コスト面から考えたらエネルギー穀物をやるべきでは。なぜ機能性植物に限定するのか」と質問した。これに対して古在先生は「コストのことはよくわかりません」とおっしゃった。
当方は門外漢であり素人だが、この回答にはいささか疑問を感じた。たしかに、数字を計算し、商売になるかどうか判断するのは古在先生の仕事ではないだろうが、公のシンポジウムでこうした質問が出たのだから、なんらかの説明がほしいところである。素人が考えれば、エネルギー穀物は広大な農地を必要とするので半閉鎖型の植物工場には適さない、ということかなと思うのだが、そういう話もなかった。
日本学術会議の主催イベントなのだし、大局からものを見る方がひとりいたほうがよかったのではないか。そして、今回の講演者の中では、古在先生がそれに適任だと感じたのだが、いかがでしょうか。
ほかに興味深かったこと。篤農家は技術を隠したがるようである。彼らから秘密を聞き出すため、先生方は何度も足を運び、人間関係を築いているらしい。科学的に解明できる現象もあるが、そうでないこともけっこうあるそうだ。篤農家は勘と経験で農作をやっているから、口では簡単に説明できない部分があるのだろう。
農業は自然との対話の中で行なうべし。Speaking Plant Approachというのは植物の声を聞き、対話せよという意味でもある。
終盤、篤農家には第六感的な能力があるかのような話も出た。そうでも考えなければ、納得できないということらしい。こんなシンポジウム、初めてだ。
植物の栽培に、科学者がこれほど手を焼いているとは知らなかった。それがわかっただけでも、参加した価値がある。まだまだ知らないことがたくさんあります。
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